日々を織る|繋がるために Vol.1

Person1 坪井絵理子さん

ⅰ 一人の人と長く密に関わっていく
ⅱ 自分の常識は、自分の思い込み。
ⅲ 辞めたいと思った時が、ほんとうのスタートラインだった
ⅳ 名前を覚えてもらうことから始めたリレーションシップ
ⅴ 心が満たされる瞬間
ⅵ 自立のための支援
ⅶ 自立の痛み
ⅷ 外海に出る経験 
ⅸ 地域と繋げる

「一人の人と長く接する仕事がしたかったんです」。障がい者を支援する福祉施設で働くと決めた理由を尋ねると、彼女は短く楽しそうにそう答えた。彼女、坪井絵理子さんと出会ったのは2012年の秋。インタビューのために訪れた彼女の職場は大阪府の北に位置する山沿いの町にある施設で、知的障がい、精神障がい、そしてDVからの非難などを理由に、女性たちが数十人、静かに過ごしていた。

BBQ ができそうに広々としたウッドデッキに面したガラスのサッシドアから差し込む陽光に満たされたリビングダイニングで、テレビを見る人、まどろむ人。長く伸びる廊下をゆっくり散歩する人。坪井さんの姿を見つけるや、呼び止めて話し始める人。
秋の昼下がりの、間延びした感じと言ってもいいくらいの緩やかな空気がそこには流れていた。利用者たちが気もちを乱すことなく過ごせるようにその空気を保っているスタッフの心配りを思った。

「大学卒業後、眼鏡の量販店に就職して、接客業を続ける中でその思いがどんどん強くなって。一人の人と長く接する仕事って何だろうと考えてるうちに、あ、福祉の仕事だ…と」。
検眼、レンズとフレームの選択、受注手続き、出来上がりの連絡、手渡し時の確認、あれば使用感の確認のための再来店。最初から最後まで自分が担当したとしても、眼鏡の販売で一人の客とせっするのはこの過程くらい。2、3回顔を合わせる程度で、時間にすれば半日も共にしない。

「物足りなくなったんです。自分でも意外なくらい、接客業についてみて、自分は人と接することが好きなんだって気づいて…」
すれ違うような出会いでは物足りなくなり、一人の人と長く密に付き合っていく、福祉施設での支援員になろうと決めた。

そう決心した坪井さんは、高校生の頃に一度、コーラスグループのメンバーとして訪問施設で訪れたこの「三恵園」を思い出した。
「私たちを迎えてくださった皆さんが、なんかすごく温かくて、嬉しかったんです。あそこで働けたらいいなあと思って、ツテを頼って問い合わせたら、ご縁があって願いが叶いました」

人と長く密に関わっていく仕事を考えた時、福祉施設で働くという選択肢が、土を持ち上げむっくと起き上がるわかめのように坪井さんの心に芽吹いたのは、人が人を迎え入れるあたたかさに触れたこの重大の体験があったからかもしれない。