日々を織る|繋がるために Vol.3

Person1 坪井絵理子さん

ⅰ 一人の人と長く密に関わっていく
ⅱ 自分の常識は、自分の思い込み
ⅲ 辞めたいと思った時が、ほんとうのスタートラインだった
ⅳ 名前を覚えてもらうことから始めたリレーションシップ
ⅴ 心が満たされる瞬間
ⅵ 自立のための支援
ⅶ 自立の痛み
ⅷ 外海に出る経験 2/2
ⅸ 地域と繋げる

何から何まで、すべてが新しいこと…というのが新鮮で楽しい。仕事において、そんな状態は長く続かない。就きたかった職業であればあるほど、最初の嬉しさに続くのは、きちんとできるようになるためのプレッシャーだ。内部に入って、その仕事の本質や課題が見えてくればくるほど、そのプレッシャーは大きくなる。先輩から注意をされながら1つ何かを覚えると、それにくっついて2つ、3つと新しい課題が生まれてくる。仕事が分かるに連れて、坪井さんはどんどんプレッシャーを感じるようになった。

「少し仕事に慣れて来た頃、毎朝、出勤するのが嫌で嫌で仕方なくなりました。ほんとうに、朝起きて、出勤するのが辛くて、辛くて」
手段や段取りを覚えた所で、やっと仕事のスタートラインにつけた…というのが、人の支援をする仕事というものなのかもしれない。

自分の都合や満足よりも、相手にとって望ましいことを優先する。先ず、望ましいことを想像する力。そのために、よりよい道筋を考える力。そして、その道を拓いていく力。一人の人と長く密に接していきたいと飛び込んだ障がい者施設の支援員という仕事が、どういうものであるかを分かり始めたこの時が、坪井さんにとって、さあ、この仕事に就きますか?と問われた、ほんとうの始まりだったのかもしれない。

希望や憧れにも似た気もちで踏み込んだ福祉の現場で、プロとして働き続けるのか。毎朝、出勤を拒否する自分と闘いながら坪井さんが出した答えは、イエスだった。
「負けず嫌いなんですよ、わたし」
自分が選んだ道が想像を超えて険しかった、だから引き返しますと、逃げたくなかった。
「何もできないままで、辞めてなるものか…と」
ともかくも、行く。利用者たちが待っている現場に向かう。現場に入ってしまえば、四の五の言っている余裕などない。やるべきことをやる、求められることに応える、ただそれだけに気もちを向け、力を注ぐだけだった。そうして自分を鼓舞しながら続けることで坪井さんはスランプを抜けた。

重い足を引きずるようにして向かった先には、
「未熟なわたしを頼りにしてくれる人がいて、ともかく、1つひとつの仕事をきちんとやっているうちに、その日が終わって、1週間、1か月が過ぎて…」
振り返ると、そこには充足感があった。
必要とされる場に居続けるということで、坪井さんは、障がい者を支援する仕事のほんとうのスタートを切った。